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東京地方裁判所 平成4年(ワ)7040号 判決 1993年11月25日

主文

一  被告は原告に対し、金七五〇万円およびこれに対する平成四年五月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

理由

1  原告の請求原因1(被告の営業内容)、2(本件売買契約の締結)は、当事者間に争いがない。

二 原告の請求原因3(住宅金融公庫の融資が受けられない場合の解除合意)についてみるに、これを認めるに足りる証拠はない。

《証拠略》(売買契約書)には、「契約締結後、乙の責に帰す住宅金融公庫等住宅ローンの融資が実行されない場合に限り甲乙双方共第23条違約損害金の適用を受けないでこの契約を解除することができる。」旨の規定がされており(第七条七)、売買代金の支払方法として金一八五〇万円について住宅ローン融資予定額との記載がされているし、《証拠略》(重要事項説明書)には、「売主の責により住宅ローンが不成立の場合に限り、買主は--中略--本契約を解除することができる。」旨の規定がされているが、この各条項をもつて「住宅金融公庫の融資」がされない場合には無条件で解除を許す旨の合意とみることができないことはいうまでもない。そして、このように書面をもつて契約がされた場合には、原則として書面に記載のもの以外の合意が成立したとみることができないことはいうまでもなく、本件証拠上も、書面外の合意を認めることはできない。

したがつて、原告の請求原因4(二)の事実の有無にかかわらず、解除権の存在を前提とする原告の請求は理由がない。

三 原告主張の錯誤について検討する。

1  まず、原告の請求原因4(一)の事実(本件不動産が当初から住宅金融公庫の融資を受けられないものであつたこと)は当時者間に争いがない。

そこで、この点について原告に錯誤があつたかについてみるに、《証拠略》によれば、本件不動産の購入資金計画について原告が住宅金融公庫からの融資を受けることを前提としていたこと、被告も、本件不動産は床面積の点で当初から住宅金融公庫の融資を受けられない物件であるのに、原告に対しては住宅金融公庫に提出する図面を操作することによつて住宅金融公庫の融資を得ることができるかのような説明をしていたこと、住宅金融公庫の融資手続は被告の側で代行しておこなう旨の説明をしていたことが各認められるところ、これによれば、原告に錯誤があつたことは明らかである。

なお、証人平尾真一郎は原告に本件不動産が公庫の適用対象外であることを明確に説明したかのような証言をするが、はつきりと説明していたかは極めて疑わしく、公庫の融資がつかないことが大いに有り得るかのような説明であつたとは考え難いし、原告が公庫融資がつかなくても本件不動産の売買契約を締結する意思があつたわけではないから(《証拠略》による。)、右の証人平尾真一郎の証言は、結論に影響しない。

2  そこで、これが契約上表示され、かつ契約の重要な要素であるといえるかについてであるが、本件の売買契約書には、前記のとおり売買代金の支払方法として金一八五〇万円について住宅ローン融資予定額との記載がされており、《証拠略》によれば、これが住宅金融公庫の融資を意味するものであつたことは明らかである。また、原告のような給料生活者が自己居住用のマンションを購入する場合(《証拠略》による。)、他の銀行融資等に比較して格段に条件の有利な住宅金融公庫の融資を受けることができるか否かが重要であることはいうまでもない。

したがつて、本件の売買契約は原告において契約の要素について錯誤があるから無効である。

四 してみれば、被告は既に受領している代金を原告に返還すべき義務があるから、原告の本訴請求は正当として、これを認容すべきである。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 綿引 穣)

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